Stories まちと藤沢ビールの物語

相原農場

⻨芽粕が⼟に還り、また命を育む循環の物語

相原農場 代表 相原 成⾏さん

100年先も続く農業を。

藤沢市の⻄の端。寒川町との境⽬にある「相原農場」の堆肥場には、冬の寒空の下、もうもうと⽩い湯気が⽴ち上っていた。

「熱いでしょう? これ、微⽣物の熱なんです」

相原さんが堆肥の⼭を掘り返すと、むっとするような熱気と共に、発酵した⼟の⾹りが漂ってくる。その温度は60度近くにもなるという。⽕を使っているわけではない。⽬には⾒えない無数の微⽣物たちが、有機物を分解する際に出すエネルギーだ。

この堆肥の中に、藤沢ビールハウスでの醸造過程で出た「⻨芽粕(ばくがかす)」が混ぜ込まれている。本来なら廃棄されるはずだった⻨芽の粕が、ここでは不要なものではなく、次の命を育むための貴重なエネルギー源として燃えているのだ。

相原農場

「もってこいだよ」即答した理由

相原さんと藤沢ビールの⽊下代表は、実は同じ⾼校の同窓⽣だ。直接の⾯識はなかったが、共通の友⼈を介して相談を受けたのが始まりだった。

「『ビールを作ると⻨芽の粕が出て、廃棄物になってしまう。何か有効活⽤できないだろうか?』って聞かれてね。だから俺、すぐに答えたんですよ。『いやもう、もってこいだよ』って」

迷いのない即答だった。それは単なる後輩への助け⾈ではない。相原農場が⻑年追求してきた農業のスタイルに、これ以上ないほど合致していたからだ。

「うちは代々、地域の資源を活⽤して野菜を作ってきました。落ち葉や⽶ぬか、地域で⼿に⼊るものを発酵させて堆肥にする。そうやって循環させることが、うちの農業の真ん中にあるんです」

捨ててしまえば産業廃棄物。けれど、⼟に還せば⽴派な資源になる。ビール作りで⽣まれた副産物が、巡り巡って地元の野菜を育てる糧になる。そのコンセプトは、まさに相原さんが求めていたものだった。

現在、藤沢ビールでは、相原さんが毎週⽔曜⽇に近くのマルシェへ出店するスケジュールに合わせて仕込みを⾏っているという。その帰りに⽴ち寄れば、⼀番新鮮な状態で、かつ無理なく回収できる。お互いの仕事を尊重し合うからこそ⽣まれた、⾃然な連携だ。

「野菜」ではなく、「⼟」を育てる

相原さんの話を聞いていると、ある⼀つのキーワードが浮かび上がってくる。それが「育⼟(いくど)」だ。

「僕らの仕事は、野菜を作るというより、⼟を育てることなんです」

化学肥料を使えば、野菜は簡単に⼤きく育つかもしれない。しかし、それでは⼟そのものの⼒は痩せていってしまう。相原さんは、⻨芽粕や落ち葉、⽶ぬかなどを混ぜ合わせ、時間をかけて発酵させ、⼟の中の微⽣物を豊かにすることに全⼒を注ぐ。

「⼟さえ健康なら、野菜は勝⼿に元気に育つんです。病気にもならないし、⾍も寄り付かない。だから⼀番⼤事なのは、この堆肥作り。ここが僕らの農業の⼼臓部ですね」

農場の⽚隅には、「踏み込み温床」と呼ばれる場所がある。落ち葉と⽶ぬかを発酵させ、その熱を利⽤して苗を育てる、いわば天然の床暖房だ。電気もガスも使わない。ここにあるのは、⾃然の摂理と、それを操る知恵だけだ。

相原農場
相原農場

「あれがないとできない農業」はやりたくない

相原農場が有機農業に切り替えたのは、相原さんがまだ⼩学⽣の頃。お⺟様が体調を崩されたのを機に、「⾷の安全」と向き合ったことがきっかけだった。以来、約40年にわたり、化学肥料や農薬に頼らない農業を貫いてきた。

そこには、単なる「安⼼・安全」を超えた、相原さんの強い信念がある。

「海外から輸⼊した肥料がないと作れないとか、農薬がないと成り⽴たないとか。『あれがないとできない農業』はやりたくないんです」

世界情勢が変われば、肥料が⼊ってこなくなるかもしれない。環境が変われば、薬が効かなくなるかもしれない。何かに依存する農業は、いつか限界が来る。

「でも、落ち葉も⻨芽粕も、この地域で出るものでしょう? 地域で回せるものだけで作れるなら、100年先だって変わらずに農業が続けられる。僕が⽬指しているのは、そういう『100年続く農業』なんです」

だからこそ、藤沢ビールから出る⻨芽粕は、相原さんにとって単なる肥料以上の意味を持つ。それは、地域の中で完結する持続可能なサイクルの、新しいピースなのだ。

⾷べることは、未来を選ぶこと

「農業の未来を決めるのは、農家じゃないんです。消費者のみなさんなんですよ」

インタビューの最後に、相原さんはそう語ってくれた。安いから、便利だからという理由だけで選ぶのか。それとも、この野菜がどうやって作られ、どんな背景を持っているのかを知って選ぶのか。

「何を選ぶかで、⽇本の農業の未来は変わる。⾷べることは、投票と同じなんです」

藤沢ビールハウスで、地元の野菜を使った料理を⾷べる。それは単なる⾷事ではなく、藤沢という街の循環に参加する⼩さな⼀票なのかもしれない。
⻨芽粕が⼟に還り、野菜になり、また私たちの⼝へ。湯気の⽴つ堆肥場から始まった物語は、私たちの⾷卓へと確かに繋がっている。

相原農場

相原農場 代表
相原 成⾏(あいはら しげゆき)さん

藤沢市の最⻄端に位置する「相原農場」の5代⽬。1991年に就農し、化学肥料や農薬に頼らず、地域資源を活かした「育⼟(いくど)」による有機農業を実践。年間を通じて少量多品⽬の野菜を⽣産し、地域の⾷卓を⽀え続けている。
https://www.instagram.com/aihara_nojo/

取材協力: 相原農場

Line up

金波 (Köln Style Ale)

金波

Köln Style Ale

アルコール度数:5.5% / IBU:13
藤沢の海を思わせる淡い金色。 ケルシュ酵母とアウルムホップが調和し、軽やかな口当たりと程よい苦味で飲みやすい1本。

さざ波

さざ波

Pale Ale

アルコール度数:5.0% / IBU:25
麦芽のやさしい甘みに、柑橘系ホップの爽やかな香り。 さざ波のような余韻が広がる、香りと味の調和を楽しめる一杯。

紅潮 (Red Ale)

紅潮

Red Ale

アルコール度数:4.9% / IBU:34
ロースト麦芽の深いコクと香ばしさが広がる赤いビール。 ゆっくり楽しみたい、余韻のある落ち着いた味わい。