Stories まちと藤沢ビールの物語

ヨンドン 吉田社長

藤沢の先輩・ヨンドン吉田さんが、
異業種の挑戦者たちに託した“場所”の理由

株式会社エムワイ代表取締役 吉田 亘良さん

いい大人が本気で遊ぶまちは、
きっと面白い。

藤沢駅北口、南仲通り商店街。
その一角に、街の景色を一望できる場所がある。「3+3 CAFE(サンタスサンカフェ)」。
店名の「3+3=6」は、藤沢が東海道五十三次の“6番目”の宿場町であったことに由来する。かつて旅人と地域の人々が交わり、文化が生まれたこの場所で、今も食を通じて人と人をつなぎ、街を見守り続けている人がいる。

藤沢屈指の焼肉店「ヨンドン」を率いる、吉田さんだ。

今回、藤沢ビール(藤沢ビールハウス)が誕生したのは、この3+3 CAFEから目と鼻の先。地元で長年愛される飲食のプロが、なぜ、全くの異業種から参入した「藤沢ビール」チームに、この一等地での開業を促したのか。そこには、単なる場所の紹介ではない、地元の先輩から後輩へ向けられた「粋な計らい」があった。

藤沢ビールハウス

「会社の目の前でできるなんて、運命じゃないか」

「実は、あそこは元々駐車場だったんです」

吉田さんは当時を振り返る。ある日、土地のオーナーから「吉田くん、ここでお店をやってくれないか」と相談が持ちかけられた。誰もが欲しがる好条件の場所だ。しかし、吉田さんの答えはNOだった。

「いやあ、僕はもうお腹いっぱいです、って断ったんです(笑)。でも、ふと思ったんですよ。『ビールをやりたい』と言って場所を探していた、木下代表たちのことを」

藤沢ビールの発起人である木下代表は、理化学機器メーカー「バイオクロマト」を経営している。そして、その候補地である駐車場は、あろうことかバイオクロマト本社の真向かいに位置していたのだ。

吉田さんはすぐにオーナーへ彼らを紹介し、木下代表にもこう伝えた。
「自分の会社の目の前でお店ができるなんて、なかなかないチャンスだよ。絶対やった方がいい」

それは、藤沢という街の中心であり、かつ木下代表自身の「ホーム」とも言える場所。挑戦するには、ここ以上のステージはないという、吉田さんからの最大のエールだった。

テナントとして一部を借りるのではなく、藤沢ビールはそこに建物を一棟丸ごと借り受ける決断をした。
「いきなり路面店で、しかも一棟借りでしょう? 普通はできないですよ。でも、その思い切りの良さがいい。あれは彼らの覚悟ですよね」

経営者として再会した、
かつての「ご近所さん」

実は、吉田さんと木下代表の縁は古い。実家が近所で、かつて木下代表の弟さんがヨンドンでアルバイトをしていたという、「ご近所」の関係性だった。

時が経ち、お互いに経営者として再会した時、吉田さんは年下の彼に感心させられたという。

「僕は自分の『理念』を見つけるのに随分時間がかかったタイプなんです。でも木下代表は、再会した時にはもう、しっかりとした経営の理念を持っていた。理化学の分野できちんと実績を積み上げている。『ああ、すごいな』と素直に思いました」

緻密な計算やロジックが必要なメーカーの代表が、感性や泥臭さが求められる「飲食・醸造」へ参入する。
全く異なるフィールドへの挑戦は、決して平坦な道のりではないはずだ。
それでも吉田さんが背中を押したのは、ビジネスの勝算以上に、この「信頼できる人」となら、藤沢で面白いことができるという確信があったからだろう。

「飲食店は地味で大変ですよ。でも、彼らは何だか楽しそうにやっている(笑)」

ヨンドン 吉田社長
藤沢ビール

ビールは、人と街をつなぐ「循環のスパイス」

「大手のビールメーカーはやっぱりすごい。頭がいいし、効率的です。でもね、だからこそ今、地域の中小企業が汗をかいて作る『ここでしか飲めないビール』に価値があるんです」

吉田さんは、藤沢ビールを単なるアルコール飲料ではなく、街の食卓を変える「スパイス」だと表現する。
現在、ここ3+3 CAFEでも藤沢ビールを提供している。かつて宿場町がそうであったように、このビールがハブとなり、また新しい交流が生まれているのだ。

「例えば、いつものナポリタン。今まで通りワインや大手ビールで食べるのもいい。でも、『今日は藤沢ビールを合わせてみようか』となれば、味わいが変わり、食卓の会話が変わるじゃないですか」

ビール造りの過程で出る「麦芽粕」を肥料にして野菜を育てる、そんな循環の仕組みも、藤沢ビールならではのスパイスだ。
同じ街で作られたビールを飲み、同じ街の空気を吸う。
それが、藤沢に住む人々の日常に、新しい彩りを加えていく。

「藤沢という街は、懐が深いんです。誰でも受け入れてくれる。だからこそ、こういう新しいスパイスが入ることで、街の文化はもっと深くなる」

カッコいい大人の背中が、次の世代を作る

インタビューの終盤、吉田さんは未来について語った。
その視線は、藤沢ビールだけでなく、その先にいる「次の世代」に向けられている。

「点は、いつか線にならなきゃいけない」

個々のお店が点として輝くだけでなく、それらが繋がり、線となって街の魅力を底上げする。地元の人が「私たちの街にはこんないい店がある」と誇れる場所が増えれば、自然と街の価値は上がっていく。

「信用や信頼を作るには、20年かかります。だからこそ、僕らみたいな50代の大人が、カッコよく、楽しそうに働いてなきゃいけないんです」

若者に「仕事は辛いぞ」と教えるのではなく、「大人が本気で仕事をすると、こんなに面白いんだぞ」という背中を見せること。
吉田さんにとって、バイオクロマトという安定した基盤を持ちながら、あえて藤沢ビールで新たな挑戦をする木下代表たちの姿は、まさにその「見せたい背中」の一つなのだ。

「あと10年がラストスパートかな。言葉じゃなくて、生き様で見せていかないと」

そう語る吉田さんの表情は、少年のように生き生きとしていた。

藤沢ビール。
それは、「いい大人」たちが本気で作り上げた、これからの藤沢を面白くする「起点」なのかもしれない。

吉田亘良さん

吉田亘良(よしだもとよし)さん
株式会社エムワイ代表取締役

「焼肉・韓国料理 ヨンドン」や「3+3 CAFE」などの飲食店を経営、地域に根ざした飲食事業を展開している。
https://yongdong.jp/

取材協力: 3+3 CAFE

Line up

金波 (Köln Style Ale)

金波

Köln Style Ale

アルコール度数:5.5% / IBU:13
藤沢の海を思わせる淡い金色。 ケルシュ酵母とアウルムホップが調和し、軽やかな口当たりと程よい苦味で飲みやすい1本。

さざ波

さざ波

Pale Ale

アルコール度数:5.0% / IBU:25
麦芽のやさしい甘みに、柑橘系ホップの爽やかな香り。 さざ波のような余韻が広がる、香りと味の調和を楽しめる一杯。

紅潮 (Red Ale)

紅潮

Red Ale

アルコール度数:4.9% / IBU:34
ロースト麦芽の深いコクと香ばしさが広がる赤いビール。 ゆっくり楽しみたい、余韻のある落ち着いた味わい。